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行政訴訟には時効がある?出訴期間の長さや例外的なケースについて解説

行政処分に対する不服申し立ての手段として行政訴訟があります。裁判所に訴えを提起することで処分の是非について争うことができますが、その提起には時効のようなルールが定められていることをご存知でしょうか。

これは「出訴期間」と呼ばれる仕組みで、確実に訴訟を提起するにはこの期間の起算日や例外規定のことを理解しておくことが重要となります。

行政訴訟の提起は「出訴期間」内にしないといけない

行政訴訟には、「出訴期間」という特有の制度があります。これは行政訴訟を提起できる期間のことで、所定の期間を過ぎてしまうと、たとえ請求内容が正当であったとしても原則として訴えは受け入れてもらえません。

 

行政訴訟における出訴期間は行政事件訴訟法という法律を根拠にしていますので、同法の内容を見ながら具体的なルールを説明していきます。

処分等を知った日から6ヶ月以内

代表的な行政訴訟である「取消訴訟」に関して、出訴期間は次のように定められています。

 

取消訴訟は、処分又は裁決があつたことを知った日から六箇月を経過したときは、提起することができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。

引用:e-Gov法令検索 行政事件訴訟法第14条第1

 

つまり、取消を望む処分などを受け、その事実を認識したときから「6ヶ月」が出訴期間ということになります。訴えを起こそうとしている方の主観に基づいて起算日が定められていることから「主観的出訴期間」と表現されることもあります。

 

なお、条文にもある“処分又は裁決”とは行政庁が行う公権力の行使に当たる行為を指しており、具体的には以下のような行為が該当します。

 

  • 建築確認(建築基準法に基づく建築物の建築計画の確認)
  • 営業許可(飲食店などに対する営業の許可)
  • 課税処分(税務署長による所得税や法人税などの課税決定)
  • 不利益処分(公務員に対する懲戒処分や免職処分など)
  • 開発許可(都市計画法に基づく開発行為の許可)
  • 生活保護決定(生活保護法に基づく保護の開始・変更などの決定)
  • 運転免許の取消(道路交通法に基づく運転免許の取消し) など

 

これらの処分に対して不服がある場合、取消訴訟の対象となり得ます。

遅くとも処分等から1年以内に対応しないといけない

前項のルールに加え、次の規定も置かれています。

 

2 取消訴訟は、処分又は裁決の日から一年を経過したときは、提起することができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。

引用:e-Gov法令検索 行政事件訴訟法第14条第2項

 

つまり、取消を望む処分などがあったときから「1年」という出訴期間も遵守しないといけません。上述の「6ヶ月」という期間と併せて適用されるため、もし処分についてまだ認識ができていなかったとしても、実際に処分が行われてから1年を経過してしまったのなら主観的出訴期間を過ぎていなくても訴えは提起できなくなります。
客観的な事実に基づいて起算日が定められていることから「客観的出訴期間」と表現されることもあります。

審査請求をしたときはその結果から起算

行政庁の処分または不作為に不服があるとき、いきなり裁判手続きに着手するのではなく、まずは行政庁に対し不服を申し立てる「審査請求」を行うのが通常の流れです。

 

審査請求では、行政庁が処分の違法性・不当性を判断するため訴訟ほどの公平さはないものの、費用がかかりませんし比較的短期間で手続きを終えられます。

 

ただ、審査請求をしている間に、争点となっている処分に係る出訴期間が迫ってきてしまいます。この問題に対処するため、次の規定が置かれています。

 

3 処分又は裁決につき審査請求をすることができる場合又は行政庁が誤って審査請求をすることができる旨を教示した場合において、審査請求があったときは、処分又は裁決に係る取消訴訟は、その審査請求をした者については、前二項の規定にかかわらず、これに対する裁決があったことを知った日から六箇月を経過したとき又は当該裁決の日から一年を経過したときは、提起することができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。

引用:e-Gov法令検索 行政事件訴訟法第14条第3項

 

つまり、審査請求を行ったときは、その結果を知ったときから「6ヶ月」、またはその結果から「1年」のいずれか早い方が訴えの期限ということになります。

起算日となる「処分・裁決を知った日」の考え方

6ヶ月という出訴期間の進行が始まる「処分・裁決を知った日」とは、具体的にどのような場合に該当するのでしょうか。

 

これに関しては特に制限がなく、当事者が「書類の交付」を受けた場合はもちろん、「口頭で処分の内容を告げられた」場合でも該当します。その他の方法であっても、当事者が実際に処分の内容を知ったことで出訴期間の進行が始まると考えられています。

 

また、当事者の住所に書類が送達されたときには、実際に封を開けていなかったとしても「社会通念上、処分があったことを了知できる状態にあった」と評価できるのなら処分について知ったものと推定されます。

例外的に提起が認められる「正当な理由」の考え方

上で示した各条文には“正当な理由があるときは、この限りでない。”という文言もあります。

 

これは、出訴期間を経過しても取消訴訟の提起が認められる例外的な取り扱いを意味しており、手続きを進められなかった「正当な理由」があるのなら出訴期間を過ぎてから訴えを提起することも可能となります。

 

ただし、単に多忙であることや制度の誤解などは「正当な理由」と認められません。この評価にあたっては、裁判所が、出訴期間を徒過した理由、処分の性質、経過した期間などさまざまな要素を総合的に考慮します。

 

たとえば「処分の違法性が重大で救済すべき必要性が特に高いケース」や「災害などによって出訴ができなかったケース」などでは正当な理由が認められる可能性がありますが、あまりこの例外規定の適用を期待すべきではないでしょう。

訴訟を考えている方が注意すべきポイント

行政訴訟の提起を考える方は、ここで解説した出訴期間を遵守することはもちろん、以下の点にも注意してください。

 

  • 訴訟の前に審査請求を先に行わなければならないケースがあるため、この場合には審査請求の期限を過ぎないようにする。
    ※例外的にすぐの訴訟提起が認められることもある。
  • そもそも行政側の行為が取消訴訟の対象となる「処分」に該当するのかを確認する。
    ※契約の締結や行政計画など処分に該当しない行為だと取消訴訟の対象にならない。
  • 行政法など法律の知識が必要となるため弁護士に相談する。

 

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谷 次郎

谷 次郎Jiro Tani

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2012年 弁護士登録

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