何が就業規則の「不利益変更」にあたる?変更の要件や適法性の判断要素について
就業規則を変更して労働条件を引き下げることは不可能ではありません。実際、経営が著しく悪化するなどして条件を変えざるを得ないケースもあるでしょう。他方で、不適切な形で労働者に不利益な変更が行われるケースも存在します。
就業規則の変更に関するルールは法令で厳格に定められていますので、その要件や判断方法についてチェックしておきましょう。
就業規則の変更について
就業規則は「労働条件や職場での規律について定めた規則」のことです。
労働基準法では常時10人以上の従業員がいる事業場に作成を義務付けており、始業・終業時刻や賃金、休日、退職に関する事項など記載すべき項目が設定されています。
この規則が労働契約の内容を補充する役割を担っておりますので、就業規則を変更するということは、労働契約そのものの変更を意味します。
「不利益変更」にあたるケース
就業規則の不利益変更とは、「従業員にとっての労働条件を引き下げる変更」を指します。
典型的には、次のような変更が該当します。
- 基本給や諸手当の減額
- 賞与支給基準の引き下げ
- 退職金制度の廃止や支給額の減少
- 休日日数の削減
- 所定労働時間の延長
- 育児休業や介護休業の取得要件の厳格化 など
実際のところ不利益かどうかを簡単には判断できないケースもあります。たとえば賃金体系を成果主義に移行する場合、一部の労働者には賃金減少のリスクがある一方で、別の労働者にとっては増加の可能性があります。
こうした場合、不利益性は個別の事情を踏まえて慎重に判断しなくてはなりません。
就業規則の変更が有効であるための要件
労働条件の変更について、法は「各人からの個別の同意」を原則としつつも、実務上の運用面にも配慮して「一定の場合には就業規則を使い一括で条件を変更することも可能」と定めています。
個別の同意による変更が原則
労働契約法第8条には、労働者と使用者(会社など)の合意により労働条件を変更できると定めてあります。
このルールが原則ですので、会社が労働条件を変更するには個々の労働者から同意を得なくてはなりません。
実務上は同意書への署名を求めるなどの対応が必要になります。
さらに、その同意が真意に基づくものであったか争われるケースもあるため、説明が不十分なまま同意を得ようとしたり、同意しなければ不利益な扱いを受けると示唆したりする行為は、会社としては避けなくてはなりません。
就業規則による変更が認められる場面
労働契約法第10条では、例外的に、個別の同意がなくても就業規則を変えることで労働条件が変更できる可能性があると定めています。
ただし次の要件を満たさなければその変更は無効となります。
- 変更内容の合理性・・・後述する諸要素を総合的に考慮し、変更に合理性が認められること
- 変更後の就業規則の周知・・・労働者が実際に知ることができる状態にすること
なお、労働基準法を下回る内容への変更は、仮に労働者の同意があっても無効です。
※たとえば、最低賃金額を下回る賃金設定、36協定を締結せずに法定労働時間を超える時間外労働を命じることなど。
変更内容の「合理性」はどうやって判断する?
変更内容に合理性があるといえるかどうかは、次の事情を考慮して判断します。
※判断は個別の事案ごとに行うため、同様のルール変更でも会社によって結論が異なることはある。
労働者が受ける不利益の程度 | ・賃金の減額幅や期間、影響を受ける労働者の範囲などを加味する ・不利益が大きいほど、それを正当化する事情がより強く求められる |
|---|---|
変更の必要性 | ・会社の経営状況や業界の動向、変更を行う事業上の必要性などを考慮する ・赤字が続いており人件費削減が不可欠な状況であれば必要性は高いと評価されやすくなる一方、ただ利益を増やしたいだけだと相対的に必要性は低く評価される |
変更内容の相当性 | ・変更後の労働条件が同業他社や地域の水準と比較して著しく低くないか、ほかの労働条件との均衡が保たれているかなどが検討される ・負担を緩和するため段階的な経過措置が設けられているかどうかも考慮要素 |
労働組合等との交渉状況 | ・労働組合がある場合は、組合との交渉の経緯や合意の有無なども重視される ・組合が強く反対している状況なら、合理性が否定される方向に傾く |
意見の聴取や周知も必要
就業規則を変更するなら、内容が適切であることに加え、所定の手続きも進める必要があります。
その1つに、「労働者の過半数で組織する労働組合(ないなら労働者の過半数を代表する者)の意見を聴取すること」が挙げられます。
同意を得ることまでは求められませんが、意見を聴いて、意見書として書面化する必要があります。
また「就業規則の周知」も欠かせません。
社内向けに変更の事実を口頭で伝えるだけでは不十分です。たとえば「事業場の見やすい場所への掲示」「従業員に直接書面を交付する」「社内システムで閲覧環境を整える」などの対応をとらなくてはなりません。
このように、就業規則の不利益変更は従業員の生活基盤に影響を与える事柄ですので、法は厳格な要件を設けています。変更を検討する会社側は要件を十分に理解したうえで慎重に対応していくことが必要ですし、従業員側も自身の権利を把握しておくことが重要です。
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谷 次郎Jiro Tani
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