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行政訴訟の種類と具体例|主観訴訟と客観訴訟、6つの抗告訴訟など

行政訴訟とは、行政機関(国や地方公共団体など)が行った処分等に対して、その正当性を裁判所で争う制度をいいます。

主に「抗告訴訟」「当事者訴訟」「民衆訴訟」「機関訴訟」の4つに分類され、それぞれに異なる特徴があります。

当記事ではこれら各種行政訴訟について言及し、それぞれの目的や手続き内容を持っています。例えば、飲食店の営業停止処分を不服とする場合や、自治体の公共事業の差し止めを求める場合など、具体的な事例を通じてその仕組みを理解することが重要です。

主観訴訟と客観訴訟

そもそも行政訴訟は、行政事件訴訟法という法律に基づいて運用されています。一般によく利用される民事訴訟が私人間の紛争を解決するのを目的としているのに対し、行政訴訟は「行政機関対私人」という非対等な関係を前提としているのが大きな特徴です。

 

そこでこの制度の根幹にあるのは、大きな権力を法的にコントロールし、国民の権利を守るという考え方です。この考え方を強く反映したのが行政訴訟のうちの「主観訴訟」で、これは個人の権利保護を目的とした抗告訴訟および当事者訴訟が該当します。

 

他方で、社会全体の秩序維持を主目的とする「客観訴訟」もあります。

社会的な利益を守るための訴訟が該当し、具体的には民衆訴訟と機関訴訟がここに含まれます。

抗告訴訟について

抗告訴訟は、行政事件訴訟法第3条に定義される行政訴訟です。

 

(抗告訴訟)
第三条 この法律において「抗告訴訟」とは、行政庁の公権力の行使に関する不服の訴訟をいう。

引用:e-Gov法令検索 行政事件訴訟法第3条第1

 

条文にもあるように、行政庁による公権力の行使に対する不服申し立てとして行う訴訟を広く含めて抗告訴訟と呼んでいます。

6つの抗告訴訟

抗告訴訟には次の6種類の訴訟類型が存在します。

 

  1. 処分の取消しの訴え
    ・・・行政機関の具体的な決定(営業停止命令など)の取り消しを求める訴訟
  2. 裁決の取消しの訴え
    ・・・審査請求(不服申立て)の結果である裁決の取り消しを求める訴訟
  3. 無効等確認の訴え
    ・・・処分や裁決が最初から無効であることを確認する訴訟
  4. 不作為の違法確認の訴え
    ・・・申請に対して合理的な期間内に応答しないことの違法性を確認する訴訟
  5. 義務付けの訴え
    ・・・行政機関に特定の処分を義務付ける訴訟
  6. 差し止めの訴え
    ・・・行政機関がこれから行おうとする処分を止めるよう求める訴訟

 

行政処分の取り消しから予防的な意義を持つ差し止めまで、幅広くカバーしています。

 

たとえば、ある店舗を経営する方が営業停止処分を受けたとしましょう。その処分に不満があるときは当該処分の取り消しを求めて「取消訴訟」を提起することになります。処分に至るまでの手続き上の不備や事実誤認などを立証して、処分の違法性を争っていくことになります。

 

大きな被害が発生する前段階で対処するには、「差止訴訟」や「義務付け訴訟」の提起が有効です。

ある行為を止めてもらう、あるいはある行為をしてもらうために提起する訴訟です。

当事者訴訟について

行政事件訴訟法第4条に定義される「当事者訴訟」は、特殊な法律関係における紛争解決を目的とする訴訟です。

 

(当事者訴訟)
第四条 この法律において「当事者訴訟」とは、当事者間の法律関係を確認し又は形成する処分又は裁決に関する訴訟で法令の規定によりその法律関係の当事者の一方を被告とするもの及び公法上の法律関係に関する確認の訴えその他の公法上の法律関係に関する訴訟をいう。

引用:e-Gov法令検索 行政事件訴訟法第4

 

「形式的当事者訴訟」と「実質的当事者訴訟」の2種類に分かれ、前者は私人間の法律関係を争う訴訟であり法律が特定の当事者を被告と定めます。土地収用法に基づく補償額決定の訴訟が典型例です。

 

たとえば、道路拡張事業で自治体Aに土地を収用される所有者Bに対し、補償金額を収用委員会Cが定めて収用裁決を出したとします。

直接裁決を下したのはCですが、場面では「Aを被告とする」というルールになっています。

争う裁決はCの出したものですが、実際に補償金を支払うのはAであることから当事者AB間で解決すべきと形式的に決まっているのです。

 

他方、後者は公務員と行政機関などの間で公法上の法律関係を争う訴訟のことです。

懲戒免職の無効を前提に、公務員としての地位確認を求める訴訟が典型例です。

民衆訴訟について

民衆訴訟は、ある地域の住民や選挙権という特定の資格を持つ者が行政の違法行為について是正を求める際の訴訟をいいます。

 

(民衆訴訟)
第五条 この法律において「民衆訴訟」とは、国又は公共団体の機関の法規に適合しない行為の是正を求める訴訟で、選挙人たる資格その他自己の法律上の利益にかかわらない資格で提起するものをいう。

引用:e-Gov法令検索 行政事件訴訟法第5

 

このうちの「住民訴訟」が代表例です。

 

たとえば、A市が違法に補助金を企業Bに出したとします。このときA市の住民Cは、住民訴訟を提起して支出の差止めと返還を求めることができます。原告であるCに返金はなく個人的な利益は得られないものの、公共の利益保護を理由に訴えが認められるという特徴を持ちます。

機関訴訟について

機関訴訟は、行政組織内部の紛争を解決するための仕組みです。

 

(機関訴訟)
第六条 この法律において「機関訴訟」とは、国又は公共団体の機関相互間における権限の存否又はその行使に関する紛争についての訴訟をいう。

引用:e-Gov法令検索 行政事件訴訟法第6

 

地方自治体の長と議会が対立し、予算執行をめぐって提起される例などがあります。

訴訟類型の選択は実務上重要

ここで紹介したように数多くの行政訴訟が存在し、実際に訴訟の手続きを進める場合、この訴訟類型の選択が大きな意味を持ちます。

 

たとえば処分の違法性について争いたいときは、取消訴訟か無効確認訴訟を提起することになるでしょう。

しかし両者には出訴期間や立証責任などの面で違いがあり、原告の選択によって結果が変わってくることもあります。

 

訴訟のための準備も変わってきますし、そもそも訴えが受け入れられずに終わる可能性も出てきます。

そのため弁護士への相談を通じて、状況に合った最適な訴訟を選択することが重要です。

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谷 次郎

谷 次郎Jiro Tani

個人の法律問題から専門的な事件まで、豊富な経験を活かしてご相談者様のお悩みを親身に伺います。問題が悪化してから来られるよりも、早めのご相談が、時間もコストもかからずに解決するケースがほとんどです。

所属団体
大阪労働者弁護団
経歴
2012年 弁護士登録

事務所概要

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冠木克彦法律事務所
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