取消訴訟における「原告適格」とは?
行政の決定に対して不満があるときでも、原告適格というものが認められなければ訴訟上の異議を唱えることができません。誰でも訴えを起こせるわけではないのです。取消訴訟提起のために必要となる原告適格とは何か、どのような場合に認められるのか、確認しておきましょう。
取消訴訟の「原告適格」とは
原告適格とは、簡単にいうと「裁判所に訴えを起こす資格」のことです。
ある問題について裁判所に判断を求める際、その人が「訴えを起こす正当な理由がある人」かどうかを示す概念です。あらゆるトラブルに対してあらゆる人が訴訟を起こせる仕組みにはなっておらず、実際に被害を受けている方など特定の者にのみ原告適格が認められます。
この考え方は、行政機関のする処分の違法性や不当性を主張するときに特に重要となります。処分等の取り消しについて広く原告適格を認めると、その分市民の権利救済にはつながりますが、乱発すると行政の安定性が損なわれてしまいます。
そのため取消訴訟に関しては公益と私益のバランスも考慮したうえで原告適格の判定が行われるのです。
誰に原告適格が与えられるのか
行政事件の1種である取消訴訟に関しては、行政事件訴訟法にて原告適格が次のように定められています。
処分の取消しの訴え及び裁決の取消しの訴え(以下「取消訴訟」という。)は、当該処分又は裁決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者(処分又は裁決の効果が期間の経過その他の理由によりなくなった後においてもなお処分又は裁決の取消しによって回復すべき法律上の利益を有する者を含む。)に限り、提起することができる。
つまり「裁判で争う処分や裁決に関して、取り消しをしてもらうことに法律上の利益がある者」が原告適格を持つということです。
争っている処分等によって自己の権利や法律上保護された利益を侵害され、あるいは必然的に侵害されるおそれがある方に関して認められます。
単なる事実上の利益ではなく法律上保護された利益でなくてはなりませんが、すでに処分・裁決そのものの効果がなくなっていたとしても、取り消しにより回復すべき法律上の利益があるなら原告適格を持つことは可能です。
処分の相手方以外に認められることもある
通常、処分の直接の相手方であれば原告適格は問題なく認められます。
さらに、一定の条件を満たせば直接的に処分を受けていない第三者であっても原告適格は認められます。
たとえば、開発許可などある都市計画関連の処分がなされることによって生活環境に影響が及ぶ近隣住民が挙げられます。
産業廃棄物処理施設の設置許可に対する周辺住民などもその一例です。
ただしその線引きは必ずしも明確ではなく、その事案における具体的状況を見て判断が下されます。
処分の相手方に認められないこともある
前項とは逆に、処分の直接的な相手方ではあるものの、原告適格が認められないケースもあります。
たとえば許可や免除といった恩恵的な処分について取り消しを求めても、その人物に法律上の利益はありません。
また、処分の取り消しを求めることが法的に権利の濫用と判断される場合にも原告適格は否定されます。
ただし、処分の直接の相手方の原告適格が否定されるケースは例外的といえます。
原告適格の有無の判断基準
取消訴訟における原告適格を判断する要素は多岐にわたります。
上述のとおり処分の相手方であるかどうかも大きな要素ですし、ほかにも以下の点を考慮して判定されます。
- 根拠法令の趣旨と目的
→ 処分の根拠となる法令が個人の利益も保護する趣旨を含むかどうか。 - 関連法令の趣旨と目的
→ 処分の直接的な根拠法令だけでなく、関連する法令の趣旨や目的も考慮する。 - 利益の内容と性質
→ 処分によって影響を受ける利益がどのような内容・性質を持つのか。 - 被害の程度と蓋然性
→ 処分が違法に行われた場合、どの程度の被害が生じる可能性があるのか。
実際の評価においては、一律の基準ではなく個々の事案ごとに詳細な検討が行われます。
評価が難しい事案もありますので、少しでも不安があるときは弁護士にご相談ください。
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